実夏の あっ地こっ馳 紀行

ご注意;★このブログの登場人物はフィクションです。
■ エピローグ
■ エピローグ

 帰ってきてしばらくは、あたしの頭の中には沖縄の音楽が毎日流れていた。それだけ、楽しかったんだよ。
 弥生ママは早速、編集さんと打ち合わせして、8ページ分のイラストを描いた。イラストは二月末に完成し、宅配便で出版社に送られた。荷造りする前にママにそっと見せてもらった。あたしたちをモデルにした女の子二人が、船の上や島の中を走り回っていた。ページの間から船旅の楽しさがあふれていた。もし、この雑誌を読んだら、みんな「にっぽん丸」に乗りたくなっちゃったと思うよ。
 さくらママもアトリエにこもって、次々とラフスケッチを仕上げていった。沖縄の青い海、白い砂、赤い花…といったモチーフだったけど、さくらママが作った色は、今までほかのだれもが描かなかった沖縄の青と白と赤だった。画廊さんが「新境地ですね」と驚き、秋の個展に向けて打ち合わせを始めた。
 夏実お姉ちゃんだけは、ご機嫌斜めだった。帰って来た週の日曜日のコスプレ・パーティーを泣く泣くキャンセルしたんだから。だって、せっかくのコスチューム、着られなかったんだもん。船の中で食べすぎたんだよ。自業自得だよ。減点10だよね。
 そしてみんなが知っているとおり、那覇に戻って1か月したら、東北地方に大きな地震が寄った。
 おかげで、弥生ママのイラストルポは掲載されなくなってしまった。とっても残念だった。弥生ママは「ギャラは先払いでにっぽん丸に乗れたから、丸儲けだよね」と自分をなぐさめていた。

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《横浜港に帰ってきたにっぽん丸》

 「にっぽん丸」は予定通り、4月の中旬、世界一周クルーズに出かけた。インド洋から喜望峰を回り、ヨーロッパ、そしてパナマ運河をとおって、にっぽんの元気を世界に発信してくれた。被災地には姉妹船の「ふじ丸」が出かけていって、家を流された人たちを、お風呂に入れてあげたり、料理を振るまったりした。
 4月に岩手の海辺に引っ越すといっていた葛原さんのことが、あたしたち四人は心配だった。でも、ある日のテレビニュースに、奥さんらしい人とボランティアで炊き出しをしている姿が映った。葛原さんは大船渡という港町で、豚汁と潮汁をふるまっていた。
 豚汁を希望する人には手前に割りばしを置いて、潮汁をほしいという人には奥に割り箸を置いていた。「混乱する現場で、いいアイデアですね」とアナウンサーが誉めていた。その様子を見て、あたしは夏実お姉ちゃんと大笑いした後、急に涙を流して泣きあってしまった。
 あたしの紀行文は、発表する場所が見つからなかったから、処女出版はみおくりになった。しかたなく、こんな形でブログで紹介することにした。レスポンスが少ないようだけどけど、いいんだもん。
 でも、でも、読んだら感想、聞かせてね。
 そして、あたしたちが大人になったら、一緒に船に乗ってモリさんのバーに行こうね♪
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那覇下船=2 2011/2/8 (火)
■那覇下船=2 2011/2/8 (火)

港までは歩いて20分ほどだった。10時ぎりぎりにあたしは港に着いた。紙テープをちらして、にっぽん丸がゆっくりと離岸していった。デッキの上からは、お客さんに交じって、船員さんたちも手を振ってくれていた。

(承前)
その中に、あのモリさんの顔も見えた。モリさんもあたしに気付いて、大きく手を振ってくれた。
あたしが手を振り返すと、モリさんは、
「またお姉さんと乗ってくださいね~!」
と叫んでくれた。
「大人になったら、きっとまた乗りま~す。そのときは、一晩中、旅の話を聞かせてくださ~い。約束だよ。ゼッタイだよ!」
あたしは叫び返した。最後のほうは、涙声になっていたかもしれない。

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《最後のほうは、涙声になっていたかもしれない》

 ジャンボジェット機の後ろの席にたどりつくと、ママたちも夏実お姉ちゃんも先に座って待っていた。
「出発三分前。滑り込みだね。減点しちゃうよ。どこ行ってたの?」
お姉ちゃんが声をかけた。
「にっぽん丸の出帆を見送ってたんだよ。モリさんもいたよ」
「実夏、泣いちゃったでしょ」
「ちょっと涙がね。で、お姉ちゃんは?」
「わたしは、デパートめぐり」
「え?」
「ほら、みて。わたしの戦利品」
お姉ちゃんが得意げに見せてくれたのは、デパートが出しているパンフレットだった。そこには『沖縄県内中学・高校女子制服承り会』と書かれていて、いろいろな学校の制服の写真が並んでいた。あたしは唖然として、お姉ちゃんにいった。
「お姉ちゃん、沖縄まで来てなにやってるの。減点5だよ」
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那覇下船 2011/2/8 (火)
■ 那覇下船=1 2011/2/8 (火)

 まだまだ降りたくない気持ちの乗客400人を乗せて、にっぽん丸は那覇港に入港した。
税関の検査が長引いて、予定よりも一時間ばかり遅れたけど、もちろん誰も文句はいわなかった。20時間でも30時間でも遅れてほしいくらいだった。
 その晩は、那覇のホテルでぐっすり寝た。いちど、真夜中に起きて、ベッドが揺れていないのに気付くと、「ああ、船を降りちゃったんだ」って実感した。夏実お姉ちゃんは、ピンクのチェックのネグリジェで、すやすや寝ていた。
 翌日の那覇発の飛行機は、12時過ぎだった。ホテルを出るとき、あたしと夏実お姉ちゃんは、ママたちから航空券の控えを渡してもらった。
「もう中学生だから、一人で空港に行けるよね。飛行機の中で再集合ね」
 …あのう、ふつう、空港のロビーとか、レストランとかで集合するんじゃないのかなあ?
 一緒に那覇市内を見学しようと誘ったけど、夏実お姉ちゃんは、
「ごめん、行くところがあるんだ」
 と断ってきた。ま、いいか。半日くらい。

おかえり
《デッキの上からは、お客さんに交じって、船員さんたちも手を振ってくれていた》(横浜港)

 あたしは行くあてがなくなったけど、ふと気がついた。にっぽん丸は今日の朝10時に、神戸に向けて出帆する。見送りに行こう。
 港までは歩いて20分ほどだった。10時ぎりぎりにあたしは港に着いた。紙テープをちらして、にっぽん丸がゆっくりと離岸していった。デッキの上からは、お客さんに交じって、船員さんたちも手を振ってくれていた。
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最終日・那覇入港=3 2011/2/8 (火)
■最終日・那覇入港=3 2011/2/8 (火)


「葛原さん、見送りの人に両手を上下に振っていましたよね。それって、海の上ではSOSのサインなんです。だから、この人、シーマンじゃないなって」
「なるほど。ではついでに、ゆうべなぜ、わたくしの英語が通じなかったんだか教えていただけますかな?」

(承前)
「あれは…。英語は通じていました。わたしがちょっといたずらしたんです」
「どうやって?」
「にっぽん丸では、紅茶もコーヒーも同じカップを使いますよね」
「はい」
「そこで、クルーの人たちは、間違えないようにティースプーンの位置を変えておくんです」
「スプーン?」
「手前にスプーンが置いてあれば、コーヒーを注文した人。カップの向こうにスプーンが置いてあれば、紅茶を注文した人、って」
「知らなかった」

こーひーおあてー
《手前にスプーンが置いてあれば、コーヒーを注文した人。向こうに置いてあれば、紅茶》


 あたしも知らなかったよ。よく気付いたなあ。
「だから、わたしはシュガーポットをとるふりをして、葛原さんのスプーンを向こう側に置き換えたんです。それを見て、別のクルーが紅茶を注いだんです」
「素敵です! 大きくなったら、ぜひわたくしの会社に入ってください。それまでに会社を大きくしておきます」
「妹と一緒でよかったら」
「もちろんです」
 ちょっと、やめてよ。こんなところでヘンな就職活動するの。

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最終日・那覇入港=2 2011/2/8 (火)
■最終日・那覇入港=2 2011/2/8 (火)

 クジラを探して水平線や渡嘉敷島の磯に眼を凝らしていると、お姉ちゃんの隣にそっと人影が近づいてきた。葛原さんだった。
「やあ、ご機嫌は?」
 相変わらずアメリカ青春ドラマ風のしゃべり方をしている。
「あ、葛原さん」

(承前)
「クジラは見られましたか? 荻野夏実さん」
 あらら。お姉ちゃんの本名、ばれていたんだ。あたしは手摺に寄りかかりながら、隣のお姉ちゃんと葛原さんの会話に耳をすませた。

けらま
《あたしは手摺に寄りかかりながら、隣のお姉ちゃんと葛原さんの会話に耳をすませた》

「…知ってたんですか?」
「有名な画家のお嬢さんですからね」
「いつから?」
「台北で一緒のバスに乗った奥様連中が教えてくれたんですよ」
「ごめんなさい。だますつもりはなかったんです」
「いいんです。気にしないでください。船の上では何にだって化けられます」
 夏実お姉ちゃんが顔をあげた。
「…航海士さんが星使いになる。バーテンダーさんが添乗員になる。中学のお嬢さんが名作のヒロインになる。海の上だからできる魔法なんです」
「そうですね」
「わたくしも、家に帰れば妻と娘がいるんです。那覇に着いたら、外してた指輪をつけなきゃ」
「娘さんはいくつですか?」
「この春、小学校に入ります」
「葛原さんも、船は初めてなんでしょ」
「あはは。そう、湘南にボートもヨットも持ってませんよ。今の住まいは静岡のお茶畑の中です」
「奥さんは置いてきたんですか?」
「誘ったんですけど、断られちゃいましてね。いかに日頃家族サービスしていないか、身にしみました」
「豪華客船に誘うなんて、立派な家族サービスだとわたしは思いますけど」
「家に帰って、笑顔を見せるのが一番の家族サービスなんです。あなたたちの家族を見て気付きました」
 そうなんだ。ウチに帰れば、ショコリキサーもモーニングコーヒーもないけど、ママとお姉ちゃんがいる。ときどき怒ったり、ケンカしたりするけど、最後はいつもにこにこ笑っている。それって、豪華客船に乗っているよりも幸せなことなんだね。
「静岡に帰ったら、家族サービスに…」
「実は引っ越すんです。妻が東海地震を怖がっているから、娘が小学校に上がるのを機会に、家族中で」
「どちらへ?」
「おふくろが東北なんで、岩手県の海が見える町に」
「寒いでしょ」
「卒園式の後、家を片付けて…。4月1日から岩手の新居に入ることになっています。東北といっても春だから、それほどでもないでしょ」
 にっぽん丸は慶良間水道を抜けて、右にかじを切った。遠く、水平線上に那覇の市街地が見えた。もうすぐ、航海も終わりだ。
「夏実さんは、いつ気付いていました? わたくしが海に縁が無いって」
「那覇を出るとき」
「まさか。会ってもいないのに」
「葛原さん、見送りの人に両手を上下に振っていましたよね。それって、海の上ではSOSのサインなんです。だから、この人、シーマンじゃないなって」
「なるほど。ではついでに、ゆうべなぜ、わたくしの英語が通じなかったんだか教えていただけますかな?」
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最終日・那覇入港=1 2011/2/8 (火)
■最終日・那覇入港=1 2011/2/8 (火)


 最終日。
 『ホライズン・ラウンジ』でモーニングコーヒーを飲んで、ダイナー『春日』で上級船室のお客さんに交じって朝食を食べ、プールサイドの『リドバー』でショコリキサーとホットドックを食べ…。もういいよね、船の食事の話は。
 操舵室で船長さんに海図の見方を教わったり、プールサイドで沖縄民謡を聞いたり、最終日といっても船の中はまだまだ楽しいことがいっぱいだった。本当に、今日の午後4時にこの船を降りなきゃいけないんだろうか。

きゃぷてん
《操舵室で船長さんに海図の見方を教わったり…》

 お昼ご飯を食べていると、船内放送が入った。
「にっぽん丸は昨夜から黒潮に乗って走ってきました。おかげで、時間的余裕ができましたので、慶良間列島の間を抜けていきます。ホエールウォッチングの名所ですから、運が良ければクジラが見られるかもしれません」
 最後のサプライズプレゼントだった。
 デッキの一番前、操舵室の真下にあたしたちは走っていった。曇り空だったが、遠く、クジラの潮吹きが何回も見えた。
 クジラを探して水平線や渡嘉敷島の磯に眼を凝らしていると、お姉ちゃんの隣にそっと人影が近づいてきた。葛原さんだった。
「やあ、ご機嫌は?」
 相変わらずアメリカ青春ドラマ風のしゃべり方をしている。
「あ、葛原さん」
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■航海3日目・台湾=10 2011/2/7 (月)
■航海3日目・台湾=10 2011/2/7 (月)

 あたしと夏実お姉ちゃんは、小学校低学年のころ、よく二人で『歌合戦』というゲームをした。テーマを決めて、そのテーマに沿った歌を歌いあっていく。レパートリーが無くなったり、テーマに外れていたりしたら負けだ。もっとも、最後は仲よく合唱して、勝ち負けなんてどうでもよくなってしまうんだけど。しゅんとした気分を元気にさせるには、一番だ。

(承前)
「いいね、お姉ちゃん。テーマは?」
 あたしの言葉に姉は一瞬考えて、
「船! っていいたいところだけど、それじゃあ演歌合戦になっちゃうのが目に見えてるから…星!」
「オッケー。じゃ、あたしからね」
 あたしは、大塚愛の『プラネタリウム』を歌った。次にお姉ちゃんがセーラームーンの『ムーンライト伝説』を歌った。さすがオタクの選曲! 
 そしてあたしたちは、次々に星の歌を歌った。
「ねえ、実夏。百曲歌うと、本物の星が降りてくるかな?」
「なにそれ? お化け話の百物語じゃないんだから」

八重山モンキー
《いちばんぶしに にがゆん♪》 *八重山モンキーのよしとーさんです*

 しかし、百曲も歌う必要がなかった。ときどき、流れ星が東シナ海から太平洋のほうに向かって飛んでいった。
何曲目だったかな、お姉ちゃんの「島人ぬ宝」のあとで「涙そうそう」をあたしが歌っていると、おととい沖縄民謡コンサートをしてくれた人が三線を持ってきて伴奏してくれた。あたしの後に八重山言葉で歌ってくれた。
「いちばんぶしに にがゆん くりがわぁぬなりなてぃー♪」
 なんでこんな素敵な晩が、二十三時間しかないんだろう。

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■航海3日目・台湾=9 2011/2/7 (月)
■航海3日目・台湾=9 2011/2/7 (月)

「ご自分の英語が通じなかったからといって、みっともないですよ。お・じ・さ・ま」
 夏実お姉ちゃんはそう捨て台詞を残して、テーブルを立った。

(承前)
 その晩、あたしたちのキャビンにさくらママが入ってきて、夏実お姉ちゃんにお説教をした。
「あまり大人をからかうんじゃありません」
「ごめんなさい、ママ」
 しゅんとしたお姉ちゃんをキャビンに残して、さくらママはあたしを廊下に呼んだ。
「最後の晩なのに、ごめんなさいね、実夏ちゃん」
「いいの。でも、夏実お姉ちゃんはさくらママが付きまとわれているって思ってやったことなの。許してあげて」
「わかってるよ。だから、部屋に入ってなぐさめてあげてね」
「はい!」
「あ、それから」
「なあに?」
「夏実にそっと聞いておいて。なぜ、葛原さんのカップに紅茶が注がれたんだか」
「はい!」
 あたしだって、それを聞きたい。
 しょげている夏実お姉ちゃんを呼び出して、一番上のデッキに連れていった。おととい、星座教室を開いた場所だ。今夜のにっぽん丸は灯りを盛って走っているから、おとといほどたくさんの星が見られなかったが、星座ははっきり見えた。船尾に南の星座が見えているということは、にっぽん丸は北に向かって走っているんだと、淋しくなってきた。

でっきないと
《しょげている夏実お姉ちゃんを呼び出して、一番上のデッキに連れていった》


「えへへ。怒られちゃったね」
お姉ちゃんが頭を掻きながらいった。ときどき風が起きて、夏実お姉ちゃんのドレスのスカートをふわっと膨らませた。
「きっと許してくれるよ。あたしからもさくらママにお願いしておくよ」
「ありがとう。ねえ、実夏。久しぶりに歌合戦しない?」
「小学校のときしてた、あれ」
「そうそう」
 あたしと夏実お姉ちゃんは、小学校低学年のころ、よく二人で『歌合戦』というゲームをした。テーマを決めて、そのテーマに沿った歌を歌いあっていく。レパートリーが無くなったり、テーマに外れていたりしたら負けだ。もっとも、最後は仲よく合唱して、勝ち負けなんてどうでもよくなってしまうんだけど。しゅんとした気分を元気にさせるには、一番だ。
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■航海3日目・台湾=8 2011/2/7 (月)
■航海3日目・台湾=8 2011/2/7 (月)


 夏実お姉ちゃんは、ミルクと砂糖をたっぷり入れるつもりで、葛原さんの前のシュガーポットに手を伸ばした。
「あ、ごめんなさい」
 ふりふりのエプロンドレスの袖が、葛原さんのカップに当たった。
「いえいえ。砂糖ならわたくしがとりますよ」
 葛原さんのティースプーンを直したお姉ちゃんは、
「すみません。マナー違反でしたね」
と、しおらしく謝った。


(承前)
 さっき注文を受けたパーサーさんとは別のフィリピンクルーがコーヒーと紅茶のポットを持ってやってきた。長い髪をお団子にした、かわいい女性のウエイトレスさんだった。
 ウエイトレスさんは、次々に紅茶とコーヒーを注いでくれた。まずはあたしたち親子から。さすがクルーズ客船、レディファーストが行きとどいている。

 ぷーるさいど
《夜のプールサイドデッキ》

でも、このウエイトレスさんは注文をとってくれた人と違うし、三百人が座るディナー会場で、なぜ間違わないんだろう。そんなふうに思っていたら、最後に葛原さんのカップに、なみなみと紅茶を注いだ。



「き、きみ!」
 ウエイトレスさんがきょとんとした眼をした。なぜ急に怒られたか、わかっていないようだった。
「ご自分の英語が通じなかったからといって、みっともないですよ。お・じ・さ・ま」
 夏実お姉ちゃんはそう捨て台詞を残して、テーブルを立った。
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■航海3日目・台湾=7 2011/2/7 (月)
■航海3日目・台湾=7 2011/2/7 (月)

英語圏? 一年? 微妙だなあ。カルカッタでもシンガポールでも英語圏と言えないことはないし、一年間じゃあテレビのヒアリングがやっとじゃないかなあ?
「すてき! じゃあ、英語でコーヒーを注文できます?」

(承前)
「え? コーヒーですか?」
「はい。もちろん、『コーヒー プリーズ』なんてじゃなくて。ちゃんとセンテンスになった英語で、にっぽん丸のフィリピンクルーに注文してください。それでコーヒーが出てきたら、わたし、葛原さんのことを『パパ』って呼んでもいいです」

でざーと
《キャプテンズディナーのデザート》

 さくらママがびっくりした顔をした。お姉ちゃん、英語力を試すなら、もっと難しい会話じゃないとだめだよ。コーヒーぐらい、わたしだって頼めるよ。「キャナイ ハブ サム カフィ?」でしょ。
 葛原さんは、してやったりと満面の笑顔で右手をあげて、フィリピン人のパーサーさんを呼んだ。
「エクスキューズ ミイ。 アイ ウッド ライク ア カップ オブ カフィ」
「イエッサー」
 あらら、学校英語丸出し。「A cup of」なんて、あたしハワイでもサンフランシスコでも聞いたことなかったもん。
「わたしは、紅茶を」
「はい。かしこまりました。今日の紅茶は“モンテクリスト”です」
 すごい!このフィリピンクルー。とってもきれいな日本語を話してるよ。
 さくらママも紅茶、あたしと弥生ママがコーヒーを頼んだ。
 夏実お姉ちゃんは、ミルクと砂糖をたっぷり入れるつもりで、葛原さんの前のシュガーポットに手を伸ばした。
「あ、ごめんなさい」
 ふりふりのエプロンドレスの袖が、葛原さんのカップに当たった。
「いえいえ。砂糖ならわたくしがとりますよ」
 葛原さんのティースプーンを直したお姉ちゃんは、
「すみません。マナー違反でしたね」
と、しおらしく謝った。
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