実夏の あっ地こっ馳 紀行

ご注意;★このブログの登場人物はフィクションです。
■航海3日目・台湾=2 2011/2/7 (月)
■航海3日目・台湾=2 2011/2/7 (月)

 全部のバスに添乗員さんが乗っていた。そのうえ、バーのモリさんが、すべてのバスがどこにいるかリアルタイムで把握して、指揮をとっていた。モリさん、偉いんだ。

(承前)
 修学旅行で詰め込み式のバス旅行になれているあたしは、何なんだ、このツアーと思った。至れり尽くせりじゃないか! 船がタイヤをはいて、台北の街を走っているようなものだよ。
 ちょっとしたアクシデントなら、スケジュールを柔軟に動かして、影響がないようにしてくれる。台北ではお正月休みの渋滞にはまって11時の衛兵交代が見られそうもなかった。そんなときでも、添乗員さんがいろいろ連絡してくれて(きっとモリさんと相談していたんだよ)、スケジュールを調整してくれた。先に 早めのお昼ご飯を食べて、午後一番の衛兵交代を見ることができた。
 戦士の墓を守っている台湾の兵隊さんが、一時間ごとに持ち場を交代するのが衛兵交代だ。守っている間は、直立のままピクリとも動かないで持ち場に着く。交代の儀式に30分かかるから、実際は30分我慢すればいいのだけど、それだって大変だろうな。

りある
《リアル・夏実お姉ちゃん》

 でも、こんなピシッとした制服は、夏実お姉ちゃんの大好物だ。カメラを構えるのも忘れて、兵隊さんをじっと見つめていた。ボタンの位置、ポケットの数、どれも記憶に刻みつけるように、テスト直前に暗記する受験生のように。こんなけなげな姉を見ると、なぜか胸がキュンとなる。
「あの兵隊さんってさ、じっと立っていたでしょ」
「うん。そうだね。1時間以上動かないんだよね」
「でもそれって、実戦的じゃないよね」
「え? 本物の兵隊さんだよ。部隊でえりすぐりの」
「だって、じっとしていたらイザというとき筋肉動かないよ」
「あ」
「テニスでも、上手なプレイヤーほど、空いている時間もぴょんぴょんとび跳ねてるじゃん」
「そう??」
 へーえ、制服ばかり見てたんじゃないんだ、ウチの姉。
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■航海3日目・台湾=1 2011/2/7 (月)
■航海3日目・台湾=1 2011/2/7 (月)

 翌朝は、台湾の沖にいた。
 基隆(きりゅう)という港に、ゆっくりと入っていった。ずいぶん雑然とした港だった。フェリーも軍艦もコンテナ船も、同じところに浮かんでいた。

じぃろん
《ずいぶん雑然とした港だった》

 モーニングコーヒーと、洋食ビュッフェの朝ごはんを済ませ、あたしたちは船を降りる準備をした。
 船に預けたパスポートを返してもらって、タラップを降りた。パスポートには、裏面のコピーが挟まっていた。
 レンガ造りの国際客船ターミナルの中には、台湾の出入国管理官がいて、しかつめらしい顔でポンポンとスタンプを押した。中に、赤いカードを挟み、パスポートを返してくれた。
 出たところに、にっぽん丸のスタッフがいた。そこで、またパスポートを船に預けることになっていた。あたしは海外旅行の経験はちょっとしかないけど、海外ではパスポートって肌身離さず持っていないといけないものでしょ。それなのに…なんと、コピーでいいんだって。
 コピーにはちゃんと、台湾入境管理官のスタンプが押してあった。ついでにくれた赤いカードは、台湾建国一〇〇年の新年を祝うものだった。そうか、きょうはまだ旧正月なんだ。
 台湾では、あたしたち4人はオプショナルツアーに申し込んでいた。船のオプショナルツアーは、年配者向けに組まれている。パンフレットには階段の数まで書かれているし、食事場所も便利でおいしい。1号車から8号車までバスは出ていたけど、全部のバスに添乗員さんが乗っていた。そのうえ、バーのモリさんが、すべてのバスがどこにいるかリアルタイムで把握して、指揮をとっていた。モリさん、偉いんだ。
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■航海二日目 石垣島=11   2011/2/6 (日)
■航海二日目 石垣島=11   2011/2/6 (日)
 夏実お姉ちゃんは紅茶が来るまで、ティースプーンを持って不思議そうに眺めていた。隣の席の紅茶を見たり、ママのコーヒーを見たり…。何か付いてるの?

(承前)
 夕食のあと、4階のホールでビンゴゲーム大会が開かれた。入場は無料。最初のビンゴでさくらママが早々とNの列を5つ並べて(Nだから4つ空けばよかったんだけど)特製のテディベアを手に入れた。司会者から聞かれて、本名を答えたとき、会場の一部から声がもれた。知ってる人は知ってるんだ。
 2回戦で夏実お姉ちゃんは最後まで粘ってチョコレートを手にした。あたしも弥生ママもかすりもしなかった。あらら、尾花家、全滅。
「では、この船の中で、一番ついていない人を決めましょう」
 司会者がいった。やだよ、そんなビンゴ。
 最後まで一つも数字を読み上げられなかった人を決める、逆ビンゴ。
 で、あたしはとことんついていなかった。8回数字が読み上げられても、ビンゴボードに穴は開かなかった。
「まだ空いていない人、前にどうぞ」
 あたしを含めて6人の客がステージに出た。そんなので目立ちたくない。しかも、トレンディー葛原さんも一緒だ。

びんご
《まだ空いていない人、前にどうぞ》

 9回目。Bの8番。葛原さんたち三人が穴をあけて、席に戻った。残りは3人。
10回目。O71。もう一人のおばさんが席に戻った。そして11回目。とうとうあたしの盤面にも穴が開いた。やった。一番ついてない人ではなかったようだった。
 最後に残った白髪のおじさんは、頭を掻きながら、ステージに立った。
「この船で一番ついていない人です。かわいそうですから、ツキを呼んでもらうように、にっぽん丸からプレゼントを差し上げます。クルーズチケット5万円分です」
 うそ! なにそれ! 聞いてないよ!
 じゃあ、結局一番ついていないのは、あたしじゃん。
 「にっぽん丸」は、あたしたちステージに出た6人にも景品をくれた。青とオレンジのボールペンセット。いいや、帰ったら友達にあげちゃお。
お姉ちゃんに笑われながら、あたしたちは沖縄音楽のミニコンサートに出かけた。
「まったく、実夏ったら、詰めが甘いんだよ。あそこでもうひと頑張りすれば、クルーズチケット手に入ったのに」
 でも、ビンゴで頑張れっていったって、どうすればいいんだ。
 6階のラウンジで、コーヒーを飲みながら三線を聞く。弾き語りをしてくれるのは、昨日の星空教室でBGMを弾いてくれた若い男性だった。にっぽん丸スタッフとなっているけど、本業は那覇や博多でライブ活動をしているミュージシャン。唄も、トークも、三線も上手だった。正直言って、昨日のラテンよりずっとよかった。
 地球の自転がプレゼントしてくれた25時まで、あたしと夏実お姉ちゃんは船の中で楽しんだ。バーやカジノには入れなかったけど、女の子二人、ショコリキサーを片手におしゃべりすれば、25時なんてあっという間だ。

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■航海二日目 石垣島=10   2011/2/6 (日)
■航海二日目 石垣島=10   2011/2/6 (日)
おばちゃんたち、さくらママのファンなのか。ファンとはいかなくても、東山魁夷とクリスチャン・ラッセン以外の作家を知っているとなると、かなりの富裕層だなあ。そういうひとたちは、デラックスルームにいて六階『春日』で夕食とってるんじゃないのか?

(承前)
 さくらママは辟易するかと思っていたら、意外にもファンに会えて楽しそうだった。ファンというのは、基本的には誉めてくれるし、悩んでいたところはファンの目でからアドバイスをしてくれる。共通の話題も無理して探さなくていい。精神的にも悪くなさそうだ。
 トレンディー葛原氏は、あたしたちのテーブルからかなり離れたところに招待されていた。どうやら、お一人様でにっぽん丸に乗っているようだ。ちょっとかわいそうな気もしたけど、気持ち悪くなるよりいいか。
 今日の夕食は和食ベースだった。
 和食だけど、食材や味付けは沖縄風になっている。和洋折衷ならぬ和琉折衷かな。琉球スギ(魚の名前だよ)とクルマエビのお刺身にはシークワーサーが添えられていたし、煮物は赤マチ(尾長鯛)だったし、強肴はアグー豚の湯引きで、沖縄のフルーツが添えられていた。メニューだけ見ると、和食じゃないよね、これ。

おながだい
《煮物は赤マチ(尾長鯛)》

 ご飯は鶏飯(けいはん)だった。あれ?鶏飯って、奄美大島の名物じゃなかったっけ?
 デザートは、沖縄産スイカ(まだ二月だよ!)とピーチパイン。ピーチパインはお昼前、石垣のパイン園で食べたよね。なんか、今日の午前中のことなのに、あのゆんたくしてたとろりと流れるような時間が、懐かしくなってきたよ。
 そのあとの飲み物は、黙っていれば日本茶だったけど、コーヒーや紅茶も選べた。弥生ママがコーヒーを頼んだのをみて、夏実お姉ちゃんも紅茶を頼んだ。
 夏実お姉ちゃんは紅茶が来るまで、ティースプーンを持って不思議そうに眺めていた。隣の席の紅茶を見たり、ママのコーヒーを見たり…。何か付いてるの? 
 
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■航海二日目 石垣島=9   2011/2/6 (日)
■航海二日目 石垣島=9   2011/2/6 (日)

コスプレが趣味のお姉ちゃんにいわれたくないだろうなあ。きらびやかでかわいい服を着て写真を撮り合うってことは、見栄じゃないの? お姉ちゃん。


(承前)
 いくら沖縄だからといって、二月初めだ。夕日が沈むと寒くなってきた。あたしたちは船の中に入った。
 3階の片隅に、自動販売機コーナーがあった。豪華客船なのに、缶ビールやカップラーメンも売っていた。国際航路になったから、缶ビールが180円で売られていた。今朝まで360円だったよ。日本の酒税、高すぎ! あたしたちが二十歳になるまでに、なんとかしてもらわなきゃ。
 ふだん、自動販売機の飲み物など買わない夏実お姉ちゃんが、健康ドリンクを買って、片手を腰に当て、一気に飲んだ。
「よし! 今夜も25時間戦うぞ!」
と気合を入れた。こわいなあ、この中学生。

西表沖
《夕日が沈むと、寒くなってきた》

「24時間でやめておきなよ。一日は25時間もないよ」
「実~夏~。減点4だよ」
「もう、その減点、いい加減にやめてよ。なんで、減点なの」
「きょうはね、あたしたち、にっぽん丸に乗っている人だけ25時間あるんだよ」
「え?」
「地球からのプレゼント」
 プレゼントされるほど、地球にやさしい生活はしていないけど。
「…そうじゃなくて、台湾と沖縄には時差が1時間あるでしょ。きょうは時間調整をするから、25時間になるんだ」
「得した気分だね」
「でも、明日は23時間しかないんだけどね」
 そうなのか。
 今夜のドレスコードも「カジュアル」だった。あたしは、昨日と同じワンピースを着けた。食べてばかりなので、ワンピースやジャンパースカートのようにお腹を締めない服がありがたかった。
 夕食は中央寄りの八人がけの円形テーブルだった。
席に着こうとすると、入り口にトレンディー葛原氏が立っているのが見えた。さては、あたしたちが席に着くのを狙ってたな。
 それを察知した夏実お姉ちゃんは、入口の方に手を振って「こっち、こっち」というように合図した。え? 呼んじゃうの??
 夏実お姉ちゃんが呼んだ相手は、葛原さんじゃなかった。60代くらいの、いかにもお金を持ってそうなおばさん4人組。デビ夫人を上品にしたような人たちばかりだ。
「どう、実夏。作戦ナンバー2・0。毒をもって毒を制すだよ」
って、お姉ちゃんはご満悦だったけど、あたし、こっちの毒も気が進まないなあ。
「あら、お嬢ちゃん。本当に荻野さくらさんの娘さんだったのね」
「あたくし、リビングに荻野先生の作品、飾ってありますの」
「宅はリトグラフですけど、5枚持ってますのよ」
「主人の会社の役員室に、今度飾らせてもらおうかしら」
 おばちゃんたち、さくらママのファンなのか。ファンとはいかなくても、東山魁夷とクリスチャン・ラッセン以外の作家を知っているとなると、かなりの富裕層だなあ。そういうひとたちは、デラックスルームにいて6階『春日』で夕食とってるんじゃないのか?
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■航海二日目 石垣島=8   2011/2/6 (日)
■航海二日目 石垣島=8   2011/2/6 (日)

 出国手続きを終えたから、あたしたちは石垣島に降りられなくなった。家族四人で、デッキに出て桟橋を見ていた。時たま、オプションに出ていた観光バスが戻ってきて、お客さんを船に返していた。

(承前)
 桟橋にテントを張っていたお土産屋さんが、片づけ始めた。もう、にっぽん丸のお客さんは石垣島にいないのだろう。
 そのうち、ワゴン車とマイクロバスがやってきて、中から中学生のブラスバンド部員を下ろした。きょうは日曜日だったっけ。
 ブラスバンド部員はTシャツとハーフパンツを黒でそろえていた。
「制服じゃないんだね」
と、なぜか不満げな口調で、夏実お姉ちゃんがつぶやいた。
 顧問の先生の指揮で、マーチを演奏し始めた。『錨をあげて』『ありがとう』など、よく知った曲が流れた。中学生の何人かがポンポンを手にして、前に出て踊ってくれた。紙テープが配られ、桟橋に次々に投げられていった。
 『八〇日間世界一周』のあと、最後に演奏してくれたのは、沖縄の『安里屋ユンタ』だった。マーチに編曲してあったけど、最高の見送りの曲だった。
「にっぽん丸」は岸壁を離れていた。演奏を終えた中学生たちが、岸壁ギリギリまで走ってきてくれて、紙テープを手に手を振ってくれた。

ふぇあうぇるいしがき
《最後に演奏してくれたのは、沖縄の『安里屋ユンタ』だった》

「いってらっしゃい!」
 とうとう、あたしと夏実お姉ちゃんは我慢できずに涙を流してしまった。ふたりのママがあたしたちの涙を見て、ほほ笑んでくれた。
 気が付くと、船尾ほうから葛原さんが歩いてきた。泣いている姿、絶対に見られたくない。あたしとお姉ちゃんは、あわてて涙をぬぐいあった。
 石垣島を後にした船の左側に、ずうっと西表島が見えていた。にっぽん丸はわざわざ西表島に沿って、半周するように航路をとっている。太陽が西の方に沈んでいこうとしている。海の上で見る夕陽って、なんだかとても大きな気がする。
 すると、船内放送が入った。
「間もなく日没です。とてもきれいな夕日ですので、皆様に見えるようににっぽん丸を一周させます。どうぞ、東シナ海に沈む夕日をご覧ください」
 そして、にっぽん丸は三十分かけて西表島の沖で一周した。
あたしたちは船の一番後ろのスポーツデッキで眺めていた。スポーツデッキのバーで、ブルーシールのアイスクリームを試食できると聞いたからだった。
「実夏、みてごらん」
 夏実お姉ちゃんが船の航跡をスプーンで指した。片手ではブルーシールの抹茶アイスを持っている。あたしはマンゴーシャーベットを舐めながら
「え? なにを」
と聞き返した。
「いい、今船の右に向かってまわってるでしょ」
「うん。時計回りだね」
「船はどっちに傾いてる?」
「え、内側に傾くから、右…あれ? 左に傾いてるよ。あたしたち後ろ向きで考えてるからかな?」
 自動車でも飛行機でも電車でも、右に曲がるときは右に…つまり内側に傾くものだ。でも、この船は逆に左に傾いてる。
「船って、そういうものなんだよ。でもほら、ゆうべ汽笛がなって左に傾いたとき、葛原さん、逆のこといってたでしょ」
「そういえば…」
「だから、あの人、船のこと知らないなって思ったの」
 お姉ちゃんが船のことを調べすぎなんだ。初めてのクルーズでしょ。
「…そりゃあ生きてれば、いろいろあるよ。だから、ウソつくなとはいわないけど、わたし見栄張る人って、大っきらい」
 コスプレが趣味のお姉ちゃんにいわれたくないだろうなあ。きらびやかでかわいい服を着て写真を撮り合うってことは、見栄じゃないの? お姉ちゃん。
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■航海二日目 石垣島=7   2011/2/6 (日)
■航海二日目 石垣島=7   2011/2/6 (日)
お姉ちゃんはキャビンの中で待っていた。
二時半から出国手続きが始まる。次の寄港地は台湾だ。これから、にっぽん丸は国際航路の船になる。あたしたちも、パスポートのチェックを受けなくてはならない。

(承前)
 例えばこれが国際空港なら、わずらわしい手続きが待っている。飛行機の改札の前に、荷物をチェックされ、ブースに並んで管理官ににらまれる。でも、にっぽん丸では船の中で出国手続きを済ませることができる。場所はなんとレストラン『瑞穂』だ。
「はやくレストランに行こうよ」
「お姉ちゃん、今度は食事じゃないよ。あわてなくてもいいよ」
「葛原さんが帰ってくる前に手続きしないと、本名ばれちゃうじゃん」
 だから『セイラ』なんて名乗らなければよかったのに…。
 ママたちとレストランにいった。会議室のテーブルが並べられて、石垣島の出入国管理官さんが座っていた。パソコンを広げてお客さんや船員さんをチェックしている。なんか場違いな雰囲気だ。
 パスポートはきのう那覇で船に預けていた。それを返してもらって、一人ずつ、出入国管理官さんの前に立った。パソコンで照合したあと、ポンとスタンプを押してくれた。思った以上にあっけなかった。あたしの2冊目、お姉ちゃんの初めてのパスポートには、「ISHIGAKI」の青いスタンプが押されていた。
 そのあと、必要な人は、税関の職員に外国製品持ち出しの書類をもらう手続きがあった。
 日本に再び帰ってきたときに「これは外国で買ったんじゃないの? 税金かけますよ」といわれないため、「日本で持ってました」という証明だ。ふつう、新品の、外国製の、ブランド品でもなければ申告する必要がない。空港ではパスポート検査の前に小さな机があって、この手続きをするけど、ほとんどの人が素通りする。あたしも弥生ママも、海外旅行に行ったときに申請した覚えはない。
 でも、夏実お姉ちゃんはわざわざキャビンから中国製のブローチを持ってきて、申告書にスタンプをもらっていた。
「そんなブローチ、那覇の税関も気にとめないよ」
「実夏、甘いね。減点3だよ」
「ちょっと、また減点?」
「石垣島の税関のスタンプが記念に残るんだよ。あとで欲しがってもあげないよ。ウチに帰って紀行文の資料にするときは、一回100円ね」

がいこく

《ウチに帰って紀行文の資料にするときは、一回100円ね》


 いいもん、見たくないもん。
 出国手続きを終えたから、あたしたちは石垣島に降りられなくなった。家族四人で、デッキに出て桟橋を見ていた。時たま、オプションに出ていた観光バスが戻ってきて、お客さんを船に返していた。
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■航海二日目 石垣島=6  2011/2/6 (日)
■航海二日目 石垣島=6  2011/2/6 (日)

 ドライバーさんは、安全運転をしながらも急いでくれた。ヤシやブーゲンビリアの間から、「にっぽん丸」の赤い煙突が見えるようになってきた。タラップの前で、お礼をいってタクシーを降りたときは、一時十五分だった。

(承前)
 町に向かう回送タクシーを見送ったお姉ちゃんは、小走りに船の階段を上っていった。
「なに急いでるの? 夏実お姉ちゃん」
「しっ! 船の上じゃわたしはセイラだよ」
「わかったよ…。なにをそんなに急いでいますの? セイラお嬢様」
「きょうのランチが一時半までなんだよ。二階レストラン『瑞穂』に急がなきゃ」
 さっき、鍾乳洞のレストランで沖縄そば食べたじゃん。二時間前にはパイナップル食べ放題だったじゃん。その食べっぷり、セイラって名前に合ってないよ。お腹、こわさないでよね。
 それでもランチを船で食べるというお姉ちゃんを残して、あたしは一人で桟橋に降りた。ママたちが帰ってくるまでまだ一時間ある。ハイビスカスの生け垣の道を、町のほうに歩いて行った。
 朝みかけた、シーサーのノボリが立っていたお土産屋さんにいった。「にっぽん丸」で来たことを話したら、
「え?日本の船だったの? でもこのノボリ、かわいいから出しておこうねー」
なんて驚いていた。あたしは、石垣島の塩を買った。さくらママにプレゼントして、おいしい料理を作ってもらおっと。
 船へ帰る途中、市役所の前でうっそうとしたガジュマルの木を見つけた。ガジュマルにはキジムナーという少年の妖怪が住んでいるといわれている。まさか会えるとは思わないけど、その深い、年齢を感じる樹木は、きっと何かが隠されていると感じた。
 ちょっと前に「長く生きた女性はかっこいい」っていうコピーを見たことがある。長く生きた樹木もかっこいい。樹木って、女性なのかな。あたしはしばらく時間を忘れて見入っていた。

きじむなあ
《長く生きた樹木もかっこいい》


 クラクションの音で我にかえった。ママたちを乗せたタクシーが停まっていた。
「マブイを落とした女の子をみつけたら、お客さんの娘さんだったさー」
と、ドライバーさんに笑われた。沖縄では、魂を抜かれることを『マブイを落とす』というんだって。いいよ、マブイをいくつ落としたって。また船に乗って石垣島に取り戻しにくるよ。
 お姉ちゃんはキャビンの中で待っていた。
 二時半から出国手続きが始まる。次の寄港地は台湾だ。これから、にっぽん丸は国際航路の船になる。あたしたちも、パスポートのチェックを受けなくてはならない。
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■航海二日目 石垣島=5  2011/2/6 (日)
■航海二日目 石垣島=5  2011/2/6 (日)

あたしと夏実お姉ちゃんは別のタクシーで観光地を回ることになった。でも、誰もいない海を見に行ったって、あたしたちは別にかわいそうじゃないよ.

(承前)
 船を降りると、添乗員さんがお客さんをテキパキと案内していた。よく見れば、先頭で指図しているのはゆうべバーにいたモリさんだった。バーテンダーさんって、昼間は寝ているかと思ってた。あたしたちと目が合うと、一瞬にっこり微笑んでくれた。余裕だなあ。
 例のトレンディー葛原さんは、『石垣島内観光と黒真珠作り体験』のバスに乗っていた。どうやら一人のようだ。どんな顔をして黒真珠作りを体験するのだろうか。
 水色のタクシーに乗って、あたしと夏実お姉ちゃんは石垣島の中へ入った。繁華街には、「歓迎光臨」という文字とかわいいシーサーのイラストが描かれたノボリが立っていた。
「あれは、台湾の観光船が入るときのノボリなんですけどね。あのお店、なんか勘違いしているな」
 ドライバーさんが苦笑いした。
 川平湾というきれいな海も、鍾乳洞も、ヤシの群落も、展望台も、どこも素敵だった。でも一番よかったのは、パイン農家の「パイナップル食べ放題」だった。
ちがうよ、食べ放題がよかったんじゃないよ。パイン園のおばさん(沖縄だから、おばあっていうのかな)と、タクシーのドライバーさんと、夏実お姉ちゃんとあたし。四人でパインを食べながら、パインの作り方だとか、島の噂話だとかをとりとめなく話してたんだ。こんなおしゃべりを、沖縄の言葉で、『ゆんたく』っていうんだって。暖かい風が吹いてきて、とても贅沢な時間が流れていたよ。豪華客船の上もステキだけど、島の片隅で何でもない時間を過ごすっていうのも、ステキなんだね。

ぱいんえん

《いちばんよかったのは、パイン農家の…》


 港への帰り道、なぜかお姉ちゃんは焦っていた。ドライバーさんがサービスで何か所か観光地を追加してあげようか、といったけど、「1時半までに船に戻ってください」と急がせた。
 ドライバーさんは、安全運転をしながらも急いでくれた。ヤシやブーゲンビリアの間から、「にっぽん丸」の赤い煙突が見えるようになってきた。タラップの前で、お礼をいってタクシーを降りたときは、1時15分だった。
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■航海二日目 石垣島=4  2011/2/6 (日)
■航海二日目 石垣島=4  2011/2/6 (日)

デッキに出てみると、石垣島が目の前に迫っていた。タグボートが伴走していた。タグボートの乗組員さんに手を振ると、作業の手を一瞬休めて手を振り返してくれた。船って、いいな。
 真下を見ると、ラムネのように澄んだ青緑色の海だった。船の底から、横揺れ防止のヒレが出ているのがはっきりわかる。

ふぃんスタビライザー
《船の底から、横揺れ防止のヒレが出ているのがはっきりわかる》

「このあたり、石西礁湖(せきせいしょうこ)っていうんだよ」
何も聞いていないのに、お姉ちゃんが教えてくれた。
「セキセイインコ?」
「それは鳥でしょ。石垣島と西表島の間の、珊瑚礁で囲まれた湖のような海っていう意味なんだって。ほら、あっちの薄く見える島が、西表島だよ。いま、わたしたちを乗せたにっぽん丸は、日本一大きな珊瑚礁の中に入ってきたんだよ」
 そんな話を聞くと、あたしは何かとても大きな気分になってきた。青い珊瑚礁の海を、ゆったりと進む大型客船。その上に、あたしと夏実お姉ちゃんは乗っているんだ。
「にっぽん丸」が着く桟橋の横には、海上保安庁の巡視船が停まっていた。船の横側が、ススで黒く汚れていた。何か月か前、中国の漁船と日本の巡視船がこの近くの島で衝突したというニュースを思い出した。その巡視船だろうか。こんなきれいな海の上で、人類ってやつは、まったく。
 いつの間にか、桟橋には大型バスが何台も集まってきていた。オプショナルツアーに参加する人たちを乗せるバスだ。
石垣島の観光や、離島にわたって水牛に乗ったりするコースがいくつも組まれていた。
あたしたちはきょう、タクシーで島の中を観光することに決めていた。なぜか、大人組と子ども組に分かれて。さくらママが、「誰もいない浜」や「古いガジュマルの木」を見たいといったから、ママたち二人が観光でない島内めぐりをすることに決めた。海や樹を見るだけじゃかわいそうだと、あたしと夏実お姉ちゃんは別のタクシーで観光地を回ることになった。でも、誰もいない海を見に行ったって、あたしたちは別にかわいそうじゃないよ。
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