実夏の あっ地こっ馳 紀行

ご注意;★このブログの登場人物はフィクションです。
●9月5日  小樽出帆  = 世界中の港の名前が書かれたプレート
 パスポートコントロールは、手際よく進んだ。にっぽん丸の中には、出国手続きを終えた人が増えていった。船の中に、日本と外国が混在している。この不思議な感覚って、クルーズ船で出国するときだけ味わえる。小樽のスタンプを押してもらったあたしたちは、もう、日本にいないことになっている。スタンプを待つお客さんは、まだ日本にいることになっている。不思議だよね。
 キャビンに戻ろうかと思ったら、夏実お姉ちゃんがあたしの袖を引いた。
「実夏、あれ探そう。去年の」
 それだけでお姉ちゃんが何を探しているのかわかった。あたしと夏実お姉ちゃんは階段を駆け上って5階に行った。船の後部には、ドルフィンホールという2層吹き抜けの大きなホールがある。コンサートやビンゴ大会を開いたり、説明会をしたりする。その入口の通路には、世界中の港の名前が書かれたプレートが飾ってある。横浜、神戸といったベーシックな港もあるし、憧れの二見(小笠原)もあった。2011年に行った那覇、石垣島、基隆もあった。そして、
「実夏! あった、あった」
夏実お姉ちゃんが男子トイレの入り口で叫んだ。あたしも走って行った。
 お姉ちゃんが指差した先には、透明なアクリルのプレートが掛かっていた。プレートには、
 藤沢市 江の島寄港記念 2012年10月31日 藤沢市
と書かれていた。
 そうなんだ。これが、3年前、にっぽん丸が初めて江の島に錨をおろした時の記念プレートなんだ。あの日、あたしたちは学校休んで船を見に行ったり、ちょっとだけお手伝いをしたりした。

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《にっぽん丸が初めて江の島に錨をおろした時の記念プレートなんだ》
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●9月5日  小樽出帆  =ギャングウェイを登った
 乗船券とパスポートを見せて、ギャングウエイを登った。船員さんたちが笑顔で出迎えてくれた。さすがに知っている顔はなかったけど、あたしたちの名簿を見て「おかえりなさい」っていってくれたときは、泣きそうになっちゃった。
 船室で荷物を確認したら、パスポートを持ってレストランに向かった。パスポートコントロールは、2階のダイニング「瑞穂」が会場だった。小樽の出入国管理官さんが、ノートパソコンを持ってきて坐っていた。パスポートの顔写真と顔を見比べて、ぽん、とスタンプを押してくれた。スタンプには「日本国・出国・小樽」と書かれていた。夏実お姉ちゃんは2度目の海外旅行だった。前回がにっぽん丸で台湾。
「見て見て、わたしのパスポート。石垣でしょ、基隆でしょ、那覇でしょ、小樽でしょ。ね、ね、成田も羽田も関空も押してないんだよ」
 たしかに、港のスタンプしか押していないパスポートって、持っている人は少ないだろうなあ。

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《船員さんたちが笑顔で出迎えてくれた。》
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●9月5日  小樽出帆  =突然、なつかしさに変わった。
 小樽運河のあたりまで坂道を降りてくると、スーツケースを引いた人の姿が目立つようになった。スーツケースには、にっぽん丸の青い荷札を付けている。タクシーで乗り付ける人もいた。
 にっぽん丸に乗らないで小樽の観光だけをしている人は、カットソーやデニムの軽装だった。にっぽん丸が泊まっていることを知らないようだった。「みんな、何しにあんな岸壁に向かってるんだろう?」ってきょとんとした目でスーツケースの客を見ていた。荷物を先に送っていたあたしたちは、小樽観光派なみの軽装で桟橋に向かっていった。心の中は、わくわくしていたんだけど。
倉庫が切れると、目の前ににっぽん丸が泊まっていた。
 わくわく感が、突然、なつかしさに変わった。
 3年前、那覇で手を振って別れたあの船が、泊まっている。そのあいだ、あたしたちは高校生になったし、大震災のニュースを見て泣いたし、源氏物語にも微分にもチャレンジした。にっぽん丸も、世界中の港をめぐった。1年前、江の島で再開した。そして、いま、3度目のめぐりあいができた。旅行会社を通してしっかりと予約しているのだから、偶然でも何でもないんだけど、なんだろう、この気持ち。3年という時間? それとも、那覇と江の島と小樽の距離感?

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《目の前ににっぽん丸が泊まっていた。》
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●9月5日  小樽出帆  =にっぽん丸だよ!
 小樽の駅に降りた。からりと晴れていた。空はものすごく高かった。すっかり、秋の大気だ。
「時間があるけど、運河とかオルゴール屋さんとか、見に行く?」
弥生ママがあたしたちに尋ねた。
「いかなーい」
 夏実お姉ちゃんとあたしは声をそろえた。
 それなら、チェックインまでまだ時間があるから、歩いていこう、ということになった。少しは、北の大地を踏みしめておかないと、函館から稚内まで大周りした宮澤賢治に申し訳ない。小樽駅から、小樽港までのわずかな距離で北海道の大気と大地を感じることにした。まったく、でっかいのかちっちゃいのかわからない旅だなあ。
 道路を曲がって、海に続く坂道をみると、その先にオレンジ色の煙突が見えた。
「実夏!にっぽん丸だよ」
 冷静を装っていた夏実お姉ちゃんが、上ずった声をあげた。走り出したくて仕方なかったけど、ここで事故でも起こしては元も子もない。あたしたち4人は、わざとゆっくりと港に向かった。

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《その先にオレンジ色の煙突が見えた。》
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●9月5日  小樽出帆  =千歳空港へ
 千歳空港行きの飛行機は満席だった。オーバーブッキングしていて「次の便に振り替えてくれるんならば、1万円あげます」ってポスターが貼り出されていた。次の便に乗っても、ぎりぎりにっぽん丸の出帆に間に合うけど、そこまでする勇気はなかった。航空券はあとで出版社が精算してくれるのだから、無理して節約する必要はない。
 何度もコールをかけられ、ぐずぐず搭乗した人がいたため、20分遅れで飛行機は新千歳空港についた。空港駅から小樽まで直行する。札幌、寄らないの? 夏実お姉ちゃんは今回が北海道初めてだし、あたしだって小学校のとき来た以来だ。大通公園とか、道庁とか、すすき野とか、見てみたい。
「夏実お姉ちゃんも、札幌観光したいでしょ」
ってふってみたら、
「わたし、そんな時間があったら、一刻も早くにっぽん丸に乗りたいけどな」
っていった。確かにそうだ。強がりじゃなさそうだ。それにまだ、すすき野で遊ぶような歳じゃあないし。


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《次の便に振り替えてくれるんならば、1万円あげます ってポスターが貼り出されていた。》
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